今回は、誰でも知っているクリスマスの名曲「Silent Night」のアカペラサウンドのレシピ(作り方)を説明したいと思います。
なお、主旋律を入れる前のバックコーラスを完成形として、それを作るための説明としたいと思います。
多重録音でアカペラを録っていったのですが、そのやり方はYouTubeにもアップしてみました。もし興味があれば、ここの説明と合わせて見て・聴いてみてください。
コード進行を探る
まず最初にメロディを歌いながら、ピアノを使ってコード進行を探っていきます。
この曲は最もシンプルなコード進行だと以下のようになります。
C C C C G G C C | F F C C F F C C | G G C C C G | C
このような3コードで完結できるんです。
ただ、これだと面白くないかなと考えて、コード進行にアレンジを入れていきます。
コード進行を考えるにあたっては、特にベースラインの進行をセットで考えています。
ベースラインがスムーズなラインになると、コード進行とあわせてオシャレ感がでるのです。
上に乗るコーラスパートは和音に埋れてしまいがちなので、ラインはあまり気にしなくて良いのですが、ベースラインはとにかく目立つので、ラインを意識します。
バンド演奏とかで、ベースがオシャレだとかっこいいバンドサウンドになるのと同じような感じです。
そして、結局出来上がったベースラインとコード進行はこのようになりました。
記譜したので、画像を貼っておきます。リアルに手書きしたものなので、そのアレンジの過程が生々しいですねww
コード進行を書き出すと、このようになっています。
C C C C G7 G7 C C9/E | F F C/E C F F6/D Em7 Am7 |
E7/G# E7/B Am D9 (C Em/D Am/C) G7 (F FM7 Fm Fdim) | C
最初のシンプルな3コードから比較すると、だいぶ変化していますね。
最後のところは、3拍子じゃなくなってますが、ritしながら適当に合わせようと思っていました。しかし、実はこの部分は録りながら、結局、F→Fm→Cというシンプルな進行に変更してしまいました。
最初に記譜したときは上記の進行にしていたというだけですね。
上記のコード進行を弾きながら(楽器ができれば)歌ってみてください、いい感じではないでしょうか?
パート構成を考える
最初にコード進行とあわせてベースラインを決めました。今回のベースラインは、コードのルート音を辿るだけでなく、動きもあってルート音以外のラインも通るようにしています。例えば、8小節目のC9のところは、「ド〜レ〜ミ〜」という流れを作ったうえで、onEにしていて、さらに「ミ〜ファ〜」と次のFに繋ぐようにしています。ほかにもベースライン工夫していますが、詳細は割愛しますね。
さて、ベースラインの次ですが、和音(コード)は基本的には3和音になるので、3ラインのコーラスパートを作ることを考えます。その結果が、赤ボールペンで書いている部分です。各コードの転回型(※)を組み合わせて、3つのそれぞれのラインが無理のないような移動になるようにしています。
※転回型=「ドミソ」を「ミソド」や「ソドミ」にするなど和音を上下に移動させて転回するように移動した和音のこと。
また、楽譜の3行目で、「E7/G# E7/B Am D9」という部分がありますが、ベースラインがルート音じゃないため、コード感をより出すために、コーラスパートでE7やD9を構成する4和音を作りたくなり、この部分だけ4声になっています。
(3声だとベースがルート音じゃないので、綺麗な和音感が弱くなるため)
ベースラインから録る
各パートの構成を決めたところで、ベースラインからレコーディングしていきます。
ベースラインは曲の軸というか芯を作る重要な要素です。
ベースをかっちり作って、その上に和音を重ねていくのが綺麗なハーモニーを作るコツだと僕は考えます。言い方を変えると、ベースさえしっかりしていれば、上に重ねる音のピッチが多少怪しくてもなんとかなりますが、ベースのピッチがブレブレだと、とても不安定な仕上がりになってしまいます。
ハモネプとかアカペラを聴いていて、ベースラインが怪しいグループとか聴いたことありませんか?それだけで聞こえが悪くなって全体を残念なものにしてしまうのです。
ベースは背骨であり、体幹であり、根っこです。
ということで、一番最初に録音することをお勧めします。
なお、MIXの際に、ベースパートは、Treble(HighPass)を低くして、Bass(LowPass)を強くしています。
ベース音の低音感を強めて、上にのるコーラスとあえて分離した感じを演出し、また、ちょっとした荒を目立たなくさせるためです。
Trebleが高いと、ちょっとした息遣いや、リップ(唇)の摩擦音、歌い出しのウィスパー音とかを必要以上に拾ってしまい、ただでさえ低音はピッチを当てるのが難しいのに、ピッチがブレる要素になり得る荒が目立ってしまうと思っています。
ハーモニー(3声のコーラスパート)を重ねる
次にコーラスパートを重ねます。
この3声は、ベースラインから独立したハーモニー感を出すために、さきほどとは逆にTrebleを強く、Bassを弱くしています。
比較的近いピッチの音を混ぜてハーモニーを作るときは、Trebleを強くして音を「軽く」した状態で混ぜてあげたほうが綺麗なハーモニーになるのです。
低音の男性同士のハモりとかで図太いハーモニーを聴いたことがありませんか?Bassが強いハーモニーだと、そんな雰囲気になってしまうのです。それが狙いの曲であれば良いですが、今回はベースラインの上にハーモニーを構成しようとしているので、図太いよりも軽いハーモニーにしてのせるのがベターなのです。
また、この3声はどこから録っていっても良いと思います。
僕は高いラインから録っていきました。
主旋律を薄く重ねる
ここまでのベースとコーラス3声の合計4声でも良いのですが、主旋律も和音のうちなので、主旋律を薄く入れることによってハーモニー感が強くなります。とくにテンションコードなどの多声和音では音を重ねたほうが雰囲気が出るので、主旋律を小さく入れることにしました。
上記の譜面には入っていないですが、最後に主旋律を小さく入れています。
これで完成です。
あらためて、上記の動画で聴いてみてください。
レコーディング・ミキシングの環境について
ちなみに、僕の環境ですが、iPhoneの本体マイクで録っていて、普通のイヤホンつないでモニターとしています。とてもチープな環境ですが、iPhoneのマイクはかなりレベル高くて綺麗に録れると思っています。
専用のマイクで録るともちろん綺麗ですが、iPhone本体マイクでも充分にキレイなんです。
録るアプリとしては、iPhoneアプリのGarageBandを使って、ミキシングまでをそれだけで行っています。
GarageBandですが、こんな素敵な機能が無料で良いのかってくらい充実していて、お手軽レコーディングには充分すぎるほどです。
なお、ミキシングの際、パート毎に以下のような機能を使ってMIXしています。
- EQの設定(Treble・Bass): ベースは低音成分を大きく、コーラスは高音成分を大きくしています。
- コンプレッサー: パート毎に音圧(音の強弱)がバラつかないようにします。MIXすると同じ強弱になって上手く音が混ざってくれます。
- PAN: 各パートを左右に振り分けます。nanaではモノラルになってしまいますが、ステレオで聴くと音の定位感(空間の中でどこで鳴っているか)が出てリアリティが増します。
- ピッチ補正: ピッチが正確なほうがハーモニーが当然キレイなので、軽く補正をかけています。
- リバーブ: 適度なリバーブをかけています。ディレイ(エコー)はかけていません。アカペラの場合はディレイは邪魔になる気がします。
今回はアカペラ「Silent Night」の多重録音について、そのレシピを紹介しました。
みなさんも是非トライしてみてください。
思ったより綺麗にできるかもしれませんよ。
それでは、ばいばい!